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Fig-5 Examplees of biodiversity coefficent at Amagasaki port

遺伝子からみた生物多様性については最近話題に取上げられている。ある生物種の遺伝子が単一化するとその生物種の存続の安定性が減じると言うものである。例えば隔絶された離島の生物であるとか、養殖された生物であると、遺伝子レベルでの単一種の個体が多くなり、野性種との交配が減じ多様性が減る例が見られる。しかし生物指標としての具体的な研究報告や提案はまだ見られない。
沿岸域での生物多様性は内湾のある限られた空間だけで見るのではなく、海域として流れによって広い範囲でつながっていることから、周辺の海域も含めて見るべきであろう。
海域浄化工法の評価には物理指標、生物指標以外に、地域住民の意向や一般市民の感覚なども参考にすべきであろう。海岸構造物であるので防災機能や親水機能を合わせ持つ必要がある。漁業権があり漁業者が存在する場合もあり、釣りその他遊漁者の入り込みも予想される。漁業と共に景観への配慮も必要であろう。更に建設費、維持管理費等のコスト面からも評価されなければならない。多面的でかつ総合的な評価が必要とされるわけであるが、事業の目的と対象地域の状況によって評価項目の選択がなされ、かつ各評価項目の重み付けがなされることになろう。
大規模プロジェクトの場合は事業計画の段階で事前評価がなされる。関西国際空港の例では9)、3候補地について機能面、地域性、経済性など7つの評価項目の中の1項目として環境が入っており、7項日それぞれに重要度の重み付けを行い、委員の採点の総合計が示されていた米国の例ではミチゲーションに関して各種の評価方法が提案されており、環境影響度が評価点として数量化されている。地域住民の意向を聞きかつ取り入れる手続きも整備されている。
日本では評価は環境基準値を満たすかどうかで判定されるのが一般的である。海域浄化に関して総合的に評価されたという事例は報告されていない。海域浄化工法についても同様であるが、このような整備で評価されていたであろうと推定されるものをTable−5に示す。定性的な評価でありかつ生物指標も入れていない。
4.評価方法に関する課題
地球上の海水の交流によって一ヶ所で発生した汚染が拡散し、その海水が再び元の場所へ戻ってくるには2年掛かるとされている。特に内湾の海水は外洋にはなかなか出にくく、その海域周辺に停滞する期間が長いので、内湾の沿岸域での海域汚染はその場所のある地域での問題となる。
現在の内湾の汚染は主にSSと有機物(N、P等の栄養塩類)によるものである。SSで示される浮遊物質やプランクトン類によって透明度が低下し、太陽光が深さ2〜3m迄しか到達しない状況が多く、海藻類が育たない。

Table-5 A evalution example of seawater purification works

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海藻類は溶解したCo2を固定する量が大きいので、固定する量が減じ大気中のCo2の量が増える。この点では地球環境問題にも影響することになる。
他方、植物性プランクトンが太陽光と温度効果によって大量発生し、動物性プランクトンも増える。これが赤潮になり魚類の大量死を招く。これは食物連鎖の中でのショートカットである。このことはTable-3に示した食物連鎖の輪の中で生産者である植物類が光合成によって増えすぎ、毒性を持つ一部の種が二次消費者である動物(魚類)を殺してしまう。このため三次消費者である大型動物までは食物が至らない状態も起きる。毒性を酸素消費に置き換えると青潮の例になる。
地域内の物質循環から見ればT-N、T-Pの全体量は変わらないが微生物の世代交代が早くなり循環速度が増すことで汚染密度を増し悪循環となる。その地域の人間にとっては沿岸域の汚染が進むことと、食料としての魚が減ることなどのマイナスが生じる。
人口の増加と一人当たり消費量(食物、エネルギーなど)の増加は相乗して、開発による自然破壊を増加させかつ排出物を増やす。日本の内湾ではかなり以前から自然の浄化力をはるかに上廻った流入負荷にさらされていた。この状態をFig-4のエネルギー流の生態系ピラミッドの例で見ると、細菌とカビのSと生産者Pが増え赤潮の例では二次消費者C2が減少し、青潮の例では一次消費者C1が減少することになる。これらは三次消費者C3の生存をおびやかすことになろう。これを多様性指数の概念で考えてみると、その地域での一部の種が極端に増加し、

 

 

 

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